かすかなひとたちへ
佐野権太

湯船に沈んで
樋から流れ落ちる
雨の音を聴いている
植物石鹸の楕円と
豊潤な湿度

*

砂時計の沈み込む
流砂を視ている
ぼくたちは砂漠のなかの
バンドウイルカ
疲れたら、休むといいよ

*

誰かを助けること
助けられること
孤独な砂つぶのまま
終わってしまうくらいなら
ぼくは

*

あなたの剥ぎ取っていった
私の甲殻の
やさしい窓から
光りの束が降りてきて、
あぁ、とてもkirei

*

細かな心象を窓辺に揺らし
傾いた水色の解放を願う
ねえ、かたつむり
うずまきの中心は
どこにつながっているの

*

秋になると
やさしいきもちになるのは
土に還った虫たちが
まるい夜を吐き出すから
大事なものが
みえるようになるんだって
君は言ったっけ

*

銀色の
くまとリボンの首かざり
改札にたたずむ
ゴスロリ少女
小さな口からもれる祈りに
街はまた
気づかないふりで

*

そうして、ぼくはまた
文字をつむぎ始める
きみの肺胞のひとつひとつに
空気を容れていくように








自由詩 かすかなひとたちへ Copyright 佐野権太 2012-04-13 23:06:12
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