みなそこ(X)
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≪さいごの夜≫
自動改札機は水槽で
中に魚が住んでいる
という夢
をみている魚が居て
自動改札機の水槽を
ふわふわ泳いでいる
という夢
をみている切符係は
男のようで実は女だ
という夢
から覚めた魚が歌う
だみ声のブルースが
自動改札機を揺らす
という夢
から覚めた魚が急に
切符に産卵し始める
という夢
から覚めた切符係が
とてもさみしそうに
とてもさみしそうに
コーヒーを零します
こぽ
こぽ こぽ
切符をくわえた魚は
こぽ
こぽ こぽ
という夢から覚めない
という夢
を一度みてみたいな
という
という
という?
と い う って何さ?
≪ふたつめの夜≫
駅の改札口には
自動改札機がたくさんならんでいました
切符を吸い込み
吐き出したり
吐き出さなかったり
自動改札機の中にはたくさんの機械が詰まっていました
切符の情報を読み取る機械
切符の向きをかえる機械
切符に穴をあける機械
切符に何か印字する機械
朝も昼も夜も
ぱしゅ ぱしゃん
ぱしゅ ぱしゃん
自動の名に恥じぬよう
正確に仕事をこなす夢のシステム
そこには何の問題もありませんでした
ただひとり
毎日それを見ている切符係だけが
自動改札機を信じていませんでした
あれは機械ではなくて水槽だよ
中を魚が泳いでるんだ
だから
よく間違いが起こるのさ
男のように見えるその切符係は
実は女で
自分のことを俺様と言うのが好き
俺様の方がずっと切符の事を知っているのにな
いつも彼女はそんな風に考えながら
うつらうつらと昼寝をするのでした
≪みっつめの夜≫
手始めにきゅうりを作ってみた
きりっとしまったきゅうり
よく出来たのでこりこり齧ってみたが
所詮作りものなのでまずい
明日のために携帯電話を電動式のものに替えた
やはり手動式より使い勝手が良い
充電の仕方が分からず
三日後に捨てた
右手と右脳で勉強しながら
左手と左脳でオナニーをしてみた
なんだ案ずるより産むが易し
辞書を引きながら達した
自動改札機にチューイングガムを吸い込ませた
この中は水槽で魚が住んでいる
エサだと思って噛むだろう
そしてちょっと不機嫌になるだろう
≪よっつめの夜≫
コーヒーをあらかた零したあと
切符係は急に人恋しくなって顔を上げました
あたりは薄暗く
ただ自動改札機のライトだけがいくつか
ぼうっと光っているのでした
ぱしゅ ぱしゃん
ぱしゅ ぱしゃん
薄闇に自動改札機の音だけがこだましています
いまも人が幾人も
往来しているのでしょう
外から内へ 内から外へ
ぱしゅ ぱしゃん
ぱしゅ ぱしゃん
切符係には通り過ぎる人々が見えませんでした
思わず
誰か
と声をかけそうになりました
けれど返事の無いことが怖くて
なにより彼女は切符係でしたので
また黙って俯くのです
カップに残った冷えたコーヒーをすすり
男のように見えるその切符係は
今はもう使わなくなった切符鋏をかちゃかちゃさせて考えます
人の顔を見なくなってどれくらいになるだろう
喜んで 出かけてゆく顔
疲れて 帰ってくる顔
泣いた顔 怒った顔 笑った顔
顔
切符に鋏を入れるのが一番好きだけど
人の顔を見るのも好きだったんだ
いまは何も
自動改札機は実は水槽で
中を魚が泳いでいる
切符が大好きだからそんなところに住んでいるのか
たまたまそこに住んでいるだけなのか
俺様はこんなところに座って
日がな一日ぼうっとしているだけ
いっそ魚になって
自動改札機の中に住みたいものだ
そうしたら
差し込まれる切符をきちんとチェックして
一所懸命に運ぶさ
人間の彼女が魚になるのは無理な話
まして自動改札機の中に住むなんて
自分のことを俺様と言うのが好きなその切符係は
あたたかいコーヒーが欲しくなって
席を立ちました
≪いつつめの夜≫
ありとあらゆる疑問形が流出してゆく
何故どうしてどうやっていつどこどっち誰
何なの?
何ナノヨ?
見えぬものを見ようとしていたのではなく
見えない
と頑なに主張する私の心を壊したかったのさ
大きなプレス機に圧縮されて
うすいうすい一枚になろう
綺麗に裁断されて
同じ形の幾千枚になろう
ヘリコプターが迎えにきて
ちりぢりに吹き飛ばしてくれるさ
傷
切符係はじっと自動改札機を見つめた
何度見てもその中に魚が居るような気がした
水をたたえる直方体の中で
すいすい泳ぐ魚が
これが私たちの仕事ですよ
と言わんばかりに
切符を運んでいるような気がした
≪むっつめの夜≫
魔方陣のようなものを拾った
@
とっああああわ@@@わああああっと
@ @ @
てけ弾 @ @ @ 弾けて
@ @ @
?いいゃりれ@を何に何@何に何を@れりゃいい?
@ @ @
のり去き置 @ @ @ 置き去りの
@ @ @
@?いいばべ呼を誰@誰を呼べばいい?@
@ @ @
@つ嘘 @ 嘘つ@
@ @ @
@ ?いいばけ聞を葉言のど@どの言葉を聞けばいい? @
@ @ @
の@ぢりち @ ちりぢ@の
@ あ た ゆ @
@ い け う @
@ らやら @
@@@@@@@@@@@@@@@@たけやぶやけた@@@@@@@@@@@@@@@@
@ みやゆ @
@ い け う @
@ ☆ た ☆ @
の@の槽水 @ 水槽の@の
@ @ @
@ たっ言とだみし楽が半後@後半が楽しみだと言った @
@ @ @
@し隠 @ 隠し@
@ @ @
@とっずらか口札改@改札口からずっと@
@ @ @
のいしろ恐 @ @ @ 恐ろしいの
@ @ @
さのるいでん@が魚に中@中に魚が@んでいるのさ
@ @ @
で動自 @ @ @ 自動で
@ @ @
さのいなら要も@@@も要らないのさ
@
が
気持ち悪いので捨てた
≪ななつめの夜≫
ぶいーん ぶいーん ぶいーん
ぶいーんぶいーんぶいーんぶいーんぶいーんぶい んぶい んぶい ん
いんぶ
いんぶ
いんぶ?
い ん ぶ って何さ?
切符係は駅員室のおもちゃ箱から
おもちゃをひとつ取り出した
電池で動く仕掛けのおもちゃは
切符係のお気に入りだった
ひとり寂しくて
考えが堂々巡りで
どうにもやりきれない時には
おもちゃで遊ぶと気が紛れるのだった
俺様の悩みを聞いてくれるかい?
どうも昨日も今日だったように思うのさ
だから明日もまた今日なんじゃなかろうか?
昨日も明日もいつも
いつもいつも今日で
いつまでたっても
俺様はここで
じっと座っているように思うのさ
どうだい?
昨日もこんな話したっけかな?
きっちり明日がくれば
俺様はもうこんな話
たぶん
きっと
明日も今日で
だから
自分のことを俺様と言うのが好きなその切符係は
電池で動く仕掛けのおもちゃと話していた
人形の形をしたおもちゃは
何も言わずにただ震えるだけだった
なあ知ってるかい?
自動改札機は
あれは機械ではなくて水槽だよ
中を魚が泳いでるんだ
だから
よく間違いが起こるのさ
俺様がいつか魚になって
魚になって
そしたらば
こんな
人形の形をしたおもちゃは
いつも
切符係が電源を切るまで
何も言わずにただ震えるだけだった
≪やっつめの夜≫
自動改札機の水槽を
ふわふわ泳いでいる
という夢
男のように見えるその切符係は
実は女で
傷
切符係はじっと自動改札機を見つめた
自動改札機の中にはたくさんの機械が詰まっていました
けれど返事の無いことが怖くて
なにより彼女は切符係でしたので
うすいうすい一枚になろう
綺麗に裁断されて
同じ形の幾千枚になろう
@とっずらか口札改@改札口からずっと@
@ @ @
のいしろ恐 @ @ @ 恐ろしいの
薄闇に自動改札機の音だけがこだましています
いまも人が幾人も
とてもさみしそうに
とてもさみしそうに
コーヒーを零します
切符をくわえた魚は
こぽ
こぽ こぽ
をみている切符係は
男のようで実は女だ
ぱしゅ ぱしゃん
ぱしゅ ぱしゃん
朝も昼も夜も
ぱしゅ ぱしゃん
ぱしゅ ぱしゃん
往来しているのでしょう
外から内へ 内から外へ
ぱしゅ ぱしゃん
ぱしゅ ぱしゃん
自分のことを俺様と言うのが好きなその切符係は
自分のことを俺様と言うのが好き
俺様の方がずっと切符の事を知っているのにな
自分のことを俺様と言うのが好きなその切符係は
自動改札機にチューイングガムを吸い込ませた
この中は水槽で魚が住んでいる
の@の槽水 @ 水槽の@の
で動自 @ @ @ 自動で
なあ知ってるかい?
自動改札機は
あれは機械ではなくて水槽だよ
あれは機械ではなくて水槽だよ
中を魚が泳いでるんだ
ヘリコプターが迎えにきて
何度見てもその中に魚が居るような気がした
自動改札機は実は水槽で
中を魚が泳いでいる
水をたたえる直方体の中で
中を魚が泳いでるんだ
さのるいでん@が魚に中@中に魚が@んでいるのさ
いっそ魚になって
自動改札機の中に住みたいものだ
そうしたら
こぽ
こぽ こぽ
人間の彼女が魚になるのは無理な話
まして自動改札機の中に住むなんて
俺様がいつか魚になって
魚になって
そしたらば
という夢
を一度みてみたいな
という
という
という?
いんぶ
いんぶ
いんぶ?
と い う って何さ?
い ん ぶ って何さ?
たぶん
きっと
明日も今日で
≪ここのつめの夜≫
こころの鼓動鼓動
客席には誰も居ません
紙吹雪はもう
溶けてしまいました
古いドアを開けると
いちめんの野原でした
化石と化石の隙間に
たくさんの導線が波うつ野原でした
答を教えてください
ここではない場所へと導いてください
夜を浴びすぎて
盲になってしまいました
自動改札機の鍵を開けました
中にはぎっしり機械が詰まっていて
ぼとぼと
涙が零れました
≪さいしょの夜≫
駅の改札口には
たくさんの自動改札機がならんでいました
夢から覚めない機械たちが
時間を刻んでいました
切符係は
自動改札機の傍らで
半ば気を失ったかのように
眠りこけています
うすい寝息が聞こえます
けれども
もしかすると
もう
生きていないのかも知れません
彼女は夢をみていました
夢の中で彼女は
自動改札機の傍らで
うつらうつらと昼寝をしていました
そして その
夢の中で彼女は
自動改札機の傍らで
じっと
ひとつの考えに想いを馳せていました
『ジドウカイサツキハスイソウデナカニサカナガスンデイル』
おおきな断片はさらにばらばらになり粒子になり
粒子はやがて見えなくなって
見えなくなった粒子は
『SHEHOPEDTOBECOMEAFISHTOCARRYATICKET』
夢の中で彼女は
自動改札機の傍らで
笑みをたたえながら
静かに
静かに
雨が
降りはじめました
駅の改札口にも
雨粒が舞い降ります
自動改札機に水が溢れて
魚は 運べるだろうか?
魚は 溺れないだろうか?
魚は 流れ出ないだろうか?
魚は 生きていけるだろうか?
魚は 泣くのではないだろうか?
魚は 苦しむのではないだろうか?
切符係はとても心配になって
自動改札機にさしかざす傘を
傘を探すために
席を立ちました