ひかり
めー

 ほんとうのことなどどこにもないのだ。作業着を脱ぎ捨てたあとの塩っぽさのどこに、命の価値はにじんでしまった。ばかだなあ。笑えてくることがまず、可笑しかった。きっと僕は、干からびるように死ぬんだと思う。祈りから剥がれ落ちた悲しさみたいに、僕は笑った。
 それから。鼻腔に残るあの女の、適度に不快な香水。感情まで適度にわからなくして、僕に抱きついたの? わからない。クルクルまわるウーロンハイ。愛はどこへ行った。寂しさで飯が食える。ほらまわるまわる地球の心。お金のお化けが走っているよ。一時間5000円の彼女の悲しさだけが、今動かずに僕を見ている。薄暗い欲望の中に、それから。を探すけれど、慣れた彼女の手つきに攪拌されて、くるくるまわるウーロンハイ。下敷きになった海綿体と精巣がなにかわからない話をはじめる。
 ネガティブな身体性を捨象して、二次元になった世の中。叶ってしまった願い事を忘れてしまうように、捨象された無次元の愛。くすぐったく生きること、いつからかわからなくなってしまったけど、涙はこらえるものだったはずだ。悲しみもだいたい、そんなようなものだったはずだ。あいまいになったz軸が、ノイズのようにかすみながら裏側をくすぐっている。使い古しのDNAの、感情線からつむがれるプリマテリア。僕たちには、大切なものがあったはずだ。涙を流すことよりも美しく、悲しむことができたはずだ。
 ああ、立ちすくんでいるとき、僕らはただの影になる。ひかりに、殺されていくんだと悟る。悲しさのかたまりから悲しさが削られて、アスファルトに落ちた。僕が僕であった痕跡が、一人でどこかへ歩き出す。僕が僕である感触が、ニューロンの隙間に迷い込む。時はまわる。くるくると。世界の端っこが、食べなれた端っこを食んでいた。僕は場所から見ていた。あたりには、生と死ばかりあった。その何一つ、悲しくなかった。


自由詩 ひかり Copyright めー 2012-04-02 11:18:21
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