「朧月(おぼろづき)」
N.K.

長いこと
夜空を見上げることなど
無くなっていたから
見上げても
夜空に当て嵌める言葉は
浮かばなかった

街が煌めくのだから
夜空は暗闇にしか見えなかった
私には
煌めく街は だから
色んな名前で溢れていた
こいぬ こぐま かに
らいおん はくちょう 

春物バーゲン 特選スイーツ
駅 雑踏 営業所
案内 集合 嬌声 挨拶
罵り 侮り 蔑み 排除

確かに流星群だと
聞いたのだが
夜空から
群れをなして
毀れている
情念までもが
ぽろぽろと

街の通りの雑踏の中へ
落ちてきた星が多すぎて
石畳の上に星は結べない
今日夜空を見上げたら
みんな落ちてしまったのか
星々は見えない
私には

翳む月だけが見えた

輪郭の無い陥穽に
朧月と言う言葉を当て嵌めて
夜空の孔を塞いだ

私は今夜
朧月と言う名辞を
少々ほっとしながら
見上げている


自由詩 「朧月(おぼろづき)」 Copyright N.K. 2012-03-30 22:27:13
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