愚者の庭
木立 悟





細くやわらかな毛氈が
鳥の道に触れてゆく
夜の上の朝
光にじむ日


猫の幻が五つ
壁の幻を視ている
街が眠るまで
会話はつづく


冬が招く冬の道を
影に刺されて歩く影
線が破れ 蒼が生まれ
白と黒の行方を照らす


忘れられた橋
樹の息継ぎの冬
地の吹雪を
のぞきこむ午後


こだまをこだまに踏みしめて
浪音の絶えないまわり道
浜より低い林を巡り
暮れを連れて歩きゆく


生まれそうな指を指で押さえ
硝子の地面の陽をたどり
割れた足跡を振り返り
花に傷つく曇の帯を見る


雨は速くなってゆく
屋根の氷は倒れつづける
撓りと震え
夜の窓に添う夜の窓


捨てられた花が塔になり
祈るものの手はひびわれて
鐘の音が生む水紋に
穂の水紋をこぼしゆく


曇は低く報いを運び
痛みは熱く やがて冷える
誰もいない庭のなか
煙のようにくりかえす


花は降るが名は降らず
名づけず 名をひもとかず
花も 花でないものも
ただそのままに降りつもる























自由詩 愚者の庭 Copyright 木立 悟 2012-03-25 16:44:44
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