若さ
草野春心



  夕方の台所で
  君を抱きしめた
  つらいことが沢山あったし
  他にどうしようも無くて



  火にかけたアルミ鍋から
  醤油の優しい匂いがただよい
  嗅ぎなれたシャンプーの香りと
  胸にかかる吐息の温さで
  結局のところ僕は
  もっとつらくなるだけで



  夕方の台所で君は
  言葉ひとつこぼさず
  笑みと
  哀れみと
  蔑みを
  両手にしまいこんで
  それを僕の
  腰のあたりに巻きつけていた



  物言わぬ僕らの代りに
  棚にしまわれた皿たちが
  くすくす笑うのを聞きながら
  僕は



  年をとっていった
  弱くなっていった
  優しくなっていった
  卑劣になっていった
  僕は
  夕方の台所で
  君のことを





自由詩 若さ Copyright 草野春心 2012-03-24 11:39:27
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春心恋歌