ミッドナイト・プラス……?
ホロウ・シカエルボク






荒ぶる風が窓の外の去年の枯葉を叩き、時化の音がする午前だ、一度眠ったものの起き出して、雛のような言葉を吐き出してしまう必要を感じた、ほんのつい数分前のことだ―こんな夜にはもう絶対に、おいそれと眠らせてはもらえない、こんな夜は今までに数え切れないくらいあった―俺がこれを書き始めると、なにか様子をうかがっているみたいに風の音が止まる、何故だ?一瞬で世界を駆け抜けることが出来るものたちなのに…少しの寒さがあり、少しの暑さがある、そのせいで上手く眠れなかったのかもしれない、あるいはもっと他に理由があるのかもしれない、だけどそんなもの突き詰めてみたところで何の意味もないんじゃないか―ああ、もうこんな調子で話をするのにも少し飽きてきたよ、実際これを読んでそう思う誰かさんよりも俺はずっとそう思っているんだけど―そう、心臓マッサージに一定のリズムがあるように、こうしたことを繰り返しやらなければならないという時がある、俺はこうして脳髄をマッサージしているのさ、延命するために―もう少し、先が見えるくらい生きてみたいからね、ハハッ!―部屋の状況でも説明してみようか?いまこの部屋は、パソコンが起動してること以外は消灯したときのままさ、つまり、真っ暗な中でディスプレイの明りを睨みながらこれを書いている、ねえ、目によくないよなんてそんな野暮なこと言いなさんなよ、もっと目によくないことも俺はこれまでに何度もやってきたんだ、そうした行為の中には当然ながらいくつかの感想というものがあるだろ、つまり、やってよかったという思いと―よくなかったという思い、そんなもの、ねえ、過去の後に来るものだろ?いまこの時には学びは存在しない、そんなもの、どうしたって存在することは出来ない…次また似たような状況が訪れるかもしれない時に、選択肢がひとつ増えるだけさ、そうだろ?―今は週末で、こんな時間にもかかわらず、表通りをいろいろなものが通り過ぎていく、おそらく酒が入っているのだろうだらしない話し声や足音、妙なリズムでアクセルを刻むそこそこでかいバイク、カーステレオからくだらない音楽を重低音で響かせる車―なあ、前にも書いたかもしれないけれど、ああいう車から本当の音楽が聞こえてきたためしが無いぜ―デジタル・ビートはコピー機で大量に刷ったようなガキばかり生みだしてしまったな…ところで風はあれっきり止んでいる、時々思い出したように探る程度に音を立てているけれど―あいつらが何を考えているのか俺には判らない―風にあいつらとか考えるとかいうのそんなに変かな、俺はあいつらに得も言われぬ意思を感じることがよくあるぜ…起き出すとすぐに空気が冷えてくる、俺は眠るときは出来るだけ薄着で寝るようにしてるから、気温の変化というものがダイレクトに伝わる、そう、寒くなってきたなと思ったら少し強めの風の音が聞こえてくる…光がいちばん速くて、音がその次なんだっけ?温度っていうのは何番目くらいに伝わってくるんだろうな―真夜中にこんなことを考えていると、壁の中に居るような気がしてくる、壁の中、判るだろう―判らないやつの方が本当は少ないんじゃないのか?俺はそう信じたいね、でなければこんな時間にこんなものを書いてる俺になんてほんと、取るに足らないような意味しかないんだってことになっちまう…まあ別に本当にそうだとしても別に俺は困りはしないけれどね―終わりまで生きることにそういうことってあんまり関係はないから…昔だったら執拗にこだわってこれよりももっともって回った言い回しでオブジェみたいな文章を書いたかもしれないけれどね…俺が昔書いたものを読んでもらえたら判ると思うんだけど、こうして同じスタイルで書き流していても昔のものとはちょっと違うところがあるんだ、こことかここがそうだなんて特別解説はしないけれどもね―なんだか俺が文中に記号を混ぜるたびに風が吹いてるような気がするな―あの風はもしかしたら昔気質な詩人の魂が固まって出来たものかもしれないぜ…ハッハ!だったらやつらにゃ俺をどうすることも出来やしないやな、ハッハ!ほら、いまちょうど強く吹いてきた…嘘だと思うだろうが本当なんだ、あいつはすごく洒落の判るやつか判らないやつかのどちらかに違いないぜ、ベイビー、ベイビー、風が吹いてるよ、今夜の眠りはどこに落ちてるんだ、ベイビー、俺に子守唄を、一瞬誤魔化してくれるくらいのでいいから、ベイビー、狂ったような風の中に居たってきっと穏やかな夢のひとつくらいは見ることが出来るはずさ、俺はこれからそれを試してみる、欠伸のひとつも出やしないけれど―そう、この前の詩で少し欠伸し過ぎたんだ、それじゃあな、騒がせたな、この辺で尻尾を切っとかないと、下手したら明け方まで書いちまうよ―これ、冗談で言ってるんじゃないんだぜ…そうだよ、オーバー・ヒートを晒して見せるにゃ、今日はあんまり適当な時間じゃないんだ。






自由詩 ミッドナイト・プラス……? Copyright ホロウ・シカエルボク 2012-03-24 03:50:02
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