お辞儀
HAL

あの日
お辞儀をした
それも深々と

本当は膝をつき
土下座すらしたかった

あの日
潰してしまい
誰もいなくなった
空っぽの事務所に
お辞儀しかできなかった私

帰る家を失って
待つ家族も去って
今日は声に出しての
ありがとうございましたの
最後のお礼のお辞儀

16年間
仕事納めに
お辞儀をしながら
言ってきたけど
そのお辞儀も
今日で終わり

管財人の弁護士に嘘をつき
支払ったのは
若造の時から
可愛がってくれた
新地のママの店の
ツケだけだった

後の莫大な負債は
法的に免除される
支払う必要のない
借りばかり

でもそれはひととして
卑劣な行為
恩あるひとを裏切る行為

掌を返す意外なひとに
血の気が引いた顛末も
後は弁護士任せ

それを知っての
自己破産
羞恥を覚える
自己破産

そんな想いが
複雑に交錯しながら
心の整理は
まったくつかず

そんな胸中を抱いての
事務所を殺した
自分の愚かさを
詫びるように
ただこれしかできない
言い訳のような
力不足の
想いを込めて

平伏すように
お辞儀して
扉を閉め鍵を掛けての
お礼と別れを込めての最後のお辞儀
お礼と別れを込めての最後のお辞儀


自由詩 お辞儀 Copyright HAL 2012-03-24 00:58:13
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