サルビアと春雷
マーブル

サルビアの女よ 朱い唇を震わせ 
何故なんだ 白い手で泥を掬う 
指先から零れる同罪をある男と結び合わせてしまった頃
ああ 春雷は鳴りやまない

風呂場で雷光の白さに白昼夢を見ているその心臓の目は10年前から何ら変わってなどいないだろう
数十分で洗い流されたアカは泡と少しの早春に焦燥したったの数十分のあいだに終わったことなのだろう

ほうらほうら 雨に濡れた新聞紙で出来た飛行機を飛ばそうとあなたは一瞬のうちに大空へ飛び立ってしまった
おおいおおおい と手を広げて大空を泳いでみてもわたしは27歳のわたしに途方もなくあてどもなく



ああ 春雷は鳴りやまない



夢から覚めた男は 朝靄のような意識のなか
必死に 振り子時計の針の位置を探っている
苦々しいコーヒーに浸かって死んじまってもいいかもしれないとまた目をつむる
ああ 春雷は鳴りやまない


踊りだした光りのもとへ駆けてゆくサルビアの女は靴擦れの足を朱くさせて

ああ
ああ
ああ


春雷は鳴りやまない 鳴りやまない 鳴りやまない


空をみあげた

あらゆるかたちの雲が


あなたの細胞ならば


無垢に


触れると思ったのだ


サルビア
サルビア
サルビア


愛の悲しみにと胸を裂かれたあなたの海原で眠りたい


つぶらな目をして

雨に微笑む

漂う鉄の匂いは

届かない


目を伏せて


また


歩き出す


うしろすがた


サルビアの女の靴音


地平線へ消えた誰かの思い


春雷 鳴りやまぬ日


サルビア
サルビア
サルビア





自由詩 サルビアと春雷 Copyright マーブル 2012-03-21 16:05:25
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