春の熱
砂木

登校中の女の子と男の子が
道路を横切ろうとしている
飛び出しに供えて ブレーキに足をかける
春の陽射しの中 防寒着の子達は
車道の前に立ち止まり
急に 女の子がしゃがみこんだ

その手にとって 顔の前で
口元をほころばせて みつめたものは
壊れたアスファルトの隙間に
溜まって 春の冷気に凍った
泥水の表面の氷 のようだった
びっくりして 男の子がみている
なんて言っているのかは聞こえない

手袋をしているようだが 汚くて冷たい
お母さんがいたら叱られるだろう
鏡のような氷の表面はキラキラとして
まだ小さな女の子が我を忘れて みとれている
車道を渡る事も 学校の事も しばし忘れて

氷は透き通っていて 私には見えなかったけど
やがて女の子は氷を捨てて 男の子と一緒に
いつもの通学路を いつもの時間で歩くのだろう
汚れた手は どうしたのだろう
雪にでもこすりつけて 手袋はポケットだろうか

キラキラと陽に反射して 綺麗な泥水の氷を
手にとりたいとは もう思わない
汚れてもいいから 手にしてみたいとは

あの日に 帰らなくていい
でも あの子に しばらく みとれてた






自由詩 春の熱 Copyright 砂木 2012-03-17 12:42:31
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