【 月の棺 —ツキノヒツギ— 】
泡沫恋歌




月の光が燦ざめく
まだ春浅き夜更けのこと
女が独りで死にました
誰にもみとられず
たった独りで息絶えて
時計の針は零時で止まったままに

女は苦しまずに
うっすらと頬笑みを浮かべて
まことに まことに
静かな夜でございます

蒼白い唇には
紅いルージュを塗りましょう
細い頸には
銀のクロスの首飾りをかけて
冷たくなった躯を
黒いサテンのドレスで覆ってください

心に滲み込んだ執着は
すべて地上に捨てていくです
けれど女の蝸牛の奥の方には
むかし愛した男の
優しい声が残っていたから
哀しみも抱いてゆきましょう

三日月でつくった
月の棺 ―ツキノヒツギ― 
女の躯を乗せて
星の川に流してください
月の引力に引き寄せられて
ゆらゆらとそらへ昇っていきます

ああどうか……
どうか哀しまないでください
死は消滅ではなく
新たなる魂の旅路なのです
もう一度生まれ変わる
その日まで

生々流転のことわり知識
原子に還り宇宙に帰依すること  

  ― eternal ― 

久遠のときを手に入れた



自由詩 【 月の棺 —ツキノヒツギ— 】 Copyright 泡沫恋歌 2012-03-16 12:38:39
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