息をとめて
渡邉建志

 
トンネルに入ると僕と弟は息をとめた。
車窓越しに流れていくオレンジ色のランプをながめていた。
出口はまだ見えない。

出口が遠くに見えはじめた。僕と弟は苦しくなりはじめ、
父はアクセルを踏み込む。流れていくオレンジ色のランプが
はやくなる。

苦しくて苦しくて、ついに口を開きそうになったそのとき、
車は出口を抜けた。光がまわりに降り注いだ。
ぷはあ。
僕らは笑った。
トンネルに勝ったのだ。
   





 
  
十年後、僕は恋の行われた場所を去ろうとしていた。
対象はもとより去った。十分後去る場所で僕は、
ただただ 立っていた。

胸ばかりがひとり高まっていく。僕はこの場所で
何かを成したのだろうか?(いや、僕は定められた時間を
ここに生きることで、何かをたしかに、成したのだ。)
しかし、この場所を去って次はどこで僕は安らげるというのか?
時間が少しずつ迫っていた。

時間がきた。
僕は人々に頭を下げ、
ゆっくりと、細胞膜から押し出されはじめた。







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自由詩 息をとめて Copyright 渡邉建志 2004-12-02 04:12:20
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