宜候
HAL

もう此岸で待っている
ひとなんかいない
でも川の向うにたくさんのひとが
待っていてくれる
懐かしいひとたちが待っていてくれる

掌を返したひと
嫌いだったひと
軽蔑されたひと

梯子を外したひと
同志であったひと
幸せを願ったひと

叱責してくれたひと
初めてキスしたひと
いのちをくれたひと

抱きしめてくれたひと
力を貸してくれたひと
ぶん殴って去ったひと

自ら旅立ってしまったひと
言葉を学ばせてくれたひと
絶望に堕としてくれたひと

夜を徹して議論を戦わせたひと
ゆくべき途を教えてくれたひと
悲しさを覚えさせてくれたひと

恨む心も
憎しみも
悲しさも
悔しさも
切なさも
淋しさも
嬉しささえも
もうなにもない
去来するものも
なにひとつない
あるのはただ懐かしさだけ

さあ川を渡る舟が来る
船頭のいない舟が来る

さあ乗ろう
向うで待つ
多くのひとに逢うために
積もる話しをするために

死に瀕した白鳥の歌う歌は
最も美しいと言われるけど
終にその歌は聴けなかった

一隻の舟は
ゆっくりと向う岸へと
動きはじめる

宜候
宜候
宜候
宜候
宜候

独り乗りの舟はゆっくりと
向う岸へ近づいていく

宜候
宜候
宜候
宜候
宜候


(Thanks To Miss.M N&Mr.K S)


自由詩 宜候 Copyright HAL 2012-03-08 23:46:21
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