月をかじる男
まーつん

月をかじ
空に凍てつく月光を
画鋲を摘み取るように
指の合間にひょいと挟んで
口の中に含む

すると世界が暗くなり
おまえの喉は冷たく燃える
噛み砕いた光は 食道を這い下りて
おまえの汚れた内側を 白い炎で焼いていく

月をすす
水面みなも揺蕩たゆたう月光を
卵の黄味を飲むように
するりとくちばしに誘いこみ
舌の上に転がす

すると世界は掻き消えて
川鵜かわうは羽ばたき岸辺を離れる
その小さな黒い身体に 騒ぐ光を閉じ込めて
疲れた翼を打ち振って 闇夜の果てへ飛んでいく 

冬の月あかりは 光のシャーベット
手に取ることができるのは
夢に彷徨う旅人だけ

雲よ どうか 責めてくれるな
光を掠め取る 盗人たちを
彼らはただ 輝きが欲しかっただけ

月よ お前は
あらゆる孤独を照らす
夜の舞台照明 希望へのいざない
そして 閉ざされることのない 幻想への入り口



自由詩 月をかじる男 Copyright まーつん 2012-03-07 23:19:45
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