ジョバンニへ
佐伯黒子

おかあさんは空からばらばらになって降ってくる
ぼくが呼ぶたびに、こたえてくれるのだった
地下深くにねむっていたまものの声が
その空に響くたびに
十五年という年月の短さと
まだ君は鉄道を降りていないことに気づくだろう
終点が見えないのかい。

父から得られる知識もあったのだろう、おそらく
これ以上の世界や、夜や、愛や、死や、
地上に生きるものたちのことを知っていれば
ほんとうのさいわいを
みつけることができたのだろうか

命がとだえるのはこわいことだから
火が消えないように水に飛び込んだのだろう
君のお母さんはまだ床に伏せているよ
ジョバンニ。


ときおり通り過ぎる銀河の只中に
旗をもって死にたそうな目をしたザネリが
叫んでいるのが見えるかい
「か」「え」「っ」「て」「こ」「い」と
訴えている口が見えるかい
彼は切符を持たない。


君はまだあの町を許せないのかい。


自由詩 ジョバンニへ Copyright 佐伯黒子 2012-03-04 02:22:55
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