無い
渡邉建志

「きゅーりさん、
きょうも伸びてるねえ。
 …なかなかに。」

ごぼーさんは言いました。

「そういうおぬしも、
ぬくぬくと伸びておるでないか。
 …なかなかに。」

きゅーりさんは言いました。

その横を、つちけむり上げて、
無いが自転車に乗って
かけぬけていきました。

無いは遠くを見上げるとそこに
山や空や雲があって、無いのとなりに
有るがいることに気がつかないようすでした。

有るは無いをとても気づかっているので、
無いのとなりでできるだけ静かに
自転車を走らせます。
無いを優しく見守るふたつの目。



「いま走っていったのは、
ふたりだったねえ」

きゅーりさんは言いました。

ごぼーさんは、
何も言わないで
涙を流しておりました。
 

ごぼーさん。









自由詩 無い Copyright 渡邉建志 2012-03-03 19:05:10
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