鬱病患者のブランコ
雅寛

黒いアイシャドウ。
ピンク色の口紅を塗って、
少し時間を掛けて、
髪の手入れをしている。
今日の為に選んだ服を着て、
何度も何度も鏡の中で悩むんだ。
なかなか外に出られなくて、
だけど、今日だけは時間に遅れたくないんだ。
準備を念入りにしたら、
君が待つ公園まで行くよ。
君に言い忘れた事が有るから。

君は少し驚いた顔。
僕は君に寂しく笑い掛ける。
こんな遠くまで来させてごめんね。
でも此処で言いたかったんだ。
―桜が綺麗。―
僕は見慣れた公園で、
昔の事を思い出す。
良く遊んだ思い出とか、
泣いた思い出とか、
でも何時の間にか此処に来る事は無くなった。
大切な思い出って奴に変わってしまったんだ。

どうでもいい事ばかり話してて、
僕も君ももどかしさ感じていた。
ずっと君と居たい。
そればかり考えてて、
でも、それは叶わない夢。
だから、君に会う時だけでも、
君に認められたかったんだ。

あのブランコ座ったまま空しく漕ぎ続ければその内幕が閉じて、
日常っていう気怠い幸せのまま全て終わらせてくれるって信じてたのに。

僕は涙を隠して、
君に全てを話すから。
このまま泣いてしまいたいけれど、
泣けばきっと見せかけのメイクが取れてしまうから。
だからブランコを漕いだんだ。
君も誘って漕いだんだ。
だけど、寂しい音を立てたブランコが、
君の顔をもっと寂しくさせてしまった。

ずっと君と居たい。
その言葉を言いたくて。
でも、それは言えない夢。
だから、遠回しなサヨナラだけ言いに来たんだ。
君が僕に思っていた事、
それが何なのか分からないけど、
もう答えは聞かないでよ。

君と二人でブランコを漕いでる。
僕等偶然生まれてきて、
偶然生まれた世界の中、
薄っぺらい可能性で生きて居るんだから。
このまま世界が終ってしまえばいいのに。
終わりなんて誰も気が付かないから。
この世界に意味なんて無いのだから。
だからこの世界生きてる僕等も、
生きてる意味なんてただの自己満足でしかないから。

生きるのに疲れた僕は、
こうして少し小さいブランコを漕ぎながら、
あの頃の僕は生きていたのかな?
そう思いながら、
死ぬ事ばかり考えているから。


自由詩 鬱病患者のブランコ Copyright 雅寛 2012-03-02 09:11:29
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