【 むかえにいくよ 】
泡沫恋歌

「むかえにいくよ」と、
男が言う。
「きっと、むかえにいくから」
そう、いつも私に言うので、
「いつむかえにきてくれるの?」と、
訊けば、
「ロトシックスが当たったら!」
大真面目に男が答えた。

夫がいる私を奪うのに……
そんな奇跡みたいなことを真剣に言う
この男が滑稽だ。
なぁ〜んだ、その程度の想われ方かと
呆れてしまった。

私が怒り出すと、
ひたすら謝る。
拗ねると……
「愛している」とか調子のイイことを言う。
別れを切りだしたら、
「だって、俺たち友だちだろう?」
などと、私を煙に巻く!

――とにかく変な男なのだ。

しょっちゅう
用もないのに電話を掛けてきては
「寂しい」と泣きを入れたりして
甘えん坊さんだし……
但し、私の健康だけは心配してくれて
「事故・怪我には気をつけてくれよ」と、
そう、言葉だけは優しい。

この年齢になったら、恋よりも
健康と年金の方が私にとっては重要な問題だ。
「むかえにいくから待っててくれ」
なんの根拠もなく、そんなことを言う男。
のらりくらりと私を縛る
毒にも薬にも成らない男だね。

だから、その珈琲は飲まずに
香りだけを楽しんでおこう。

――もう、そんな恋で十分なんだよ。

    


自由詩 【 むかえにいくよ 】 Copyright 泡沫恋歌 2012-02-22 14:20:02
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