ウールさん
そらの珊瑚

 自分が何者かを知りたかった
 今はイザベルおばあさん愛用のひざ掛け と
 呼ばれているのだが
 もともとどこから来たのだろうと
 人間たちの間で流行っている
 自分探しというものを
 してみたくなったのだった

 そこで
 孫娘のリリカに聞くことにした
 そもそも
 ウールさんをひざ掛けに編んだのは
 リリカだったから

「あなたがどこから来たかって? そうねえ。
 私が知っていることは、羊さんだったところまでよ」

「羊さん? わたしは羊さんだったのですか?」

「たぶんね。あなたにはウール100%ってタグがついていたもの」

「100%って何?」

「だから混じりけなしってこと。まるごとぜんぶ羊さんの毛よ」

「ふうん」

「まるごとぜんぶ羊さんは、とてもあたたかいのよ」

「羊さんまではわかりました。じゃあ、その前は何だったのでしょうか?」

 リリカは腕組みをして、小首をかしげながら、しばらく考えていた
 けれど、歯が立たない質問だと思った

「さっきも言ったけど、私が知っていることはそこまでなの。
 それに私だってほんとうのところ、自分がどこから来たかなんて
 そんな難しいことはわからないわ」

「どこから来たのでしょうね」

 するとイザベルおばあさんがつぶやいた。

「みんな一緒のところから来たんですよ。
 例えばほら、あすこからかもしれなくてよ」

 イザベルおばあさん指さす方を見たら
 一番星が光っていた

「星を見ているとあたたかい気持ちになるでしょう。
 とても懐かしいような。
 ウールさんに包まれていると
 同じような気持ちになるんですよ」

 数年後イザベルおばあさんは眠るように亡くなった
 ウールさんは、
 あたためる人がいなくなるって
 さみしいことだなと思った
 羊をあたためて、
 おばあさんをあたためて、
 また誰かのことを
 あたためることができたらいいなと思うのだった

 自分探しの旅路は
 過去にも
 そして未来にも
 リボン(Re-Born)のように、つながっている


自由詩 ウールさん Copyright そらの珊瑚 2012-02-22 09:32:21
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