入廷
そして入廷
裁判官は右側のすべり台から降りてくる
大勢の人に傍聴券はなく
代用される馬券
代用される切符
代用される答案用紙
狭苦しい通路と
ひとつしかない出入り口を押し広げ
点数ほども恥じ入る様子がない大勢の人
団結するだろう
傍聴席に押し掛けるために
だが誰よりも早く着いていた
黄色い貴婦人
口元に微笑をたたえ
口元に戦争の跡は無く
足下に駅売り弁当の殻
脱皮
羽が生えていない！
人々は想像の翼で飛ぶ
夫人は傘で飛ぶ
夫人が広げる日傘ほども寛容ではない
濁る雰囲気の
重苦しい空気の
手ぬるい応酬の
判決を待つ間
すべり台は恐怖の
道具に変わる
シーソーは羽目を外し
ブランコは跳ね上がり
ジャングルジムはアジト化
台は殴りつけられ
台はささくれ立たされ暮れている
ここにある人はみんな
機械であるに違いない
とは誰の言葉
さぞかしお楽しみ
でしたでしょうね
判決は覆らず
覆水は舐める
あるいは舐められる
あるいはカテゴリー
分類の為のふせん
写真・ノート
プラスチックでできたもの
出来合いのものこそ
埋めるべきではない
半透明であることの喜び
切り取る術を持たぬ刃は
こぼれ
はいつくばり
まだらになる
とは
まだれる
夜の電灯
歩道のようになる
歩くべきもの
（光を避けるように歩いて
まだ光る）
歩くべきでないもの
（影のようにまとわりつき
影そのもの）
互い違いの足跡
まるで左右違う靴を履いてきた
黄色い貴婦人
雪はうずたかく積もり
裁判所は回り込まれる
壁にいくつかの
求人情報が貼られるだろう
真っ先に見る場合には
まず手袋をお取りなさいませ
直立のプレジデント
竹で出来た物差しの用途
道に同じ幅の
側溝を作ることが出来るか？
等号と不等号
アスファルトと苔
緑色の橋
緑色の水槽
連結をあきらめる
隔絶とは何をさすか
いよいよ川も深緑
ぐるぐる回っている流れを見つめると
砂鉄を引き寄せることがある
クレバスとクレパスは似てない
流動
あるいは引き離すかも知れず
裁判所の裏でスケッチ
広告の裏でスケッチ
川の向こうでスケッチ
している子供と同じものを
書いているとしたら
それはトランプでいうところのジョーカー
抜き差しならぬ関係
消したならば手品
だが消えねばならぬのは
一体誰の方だろうね
ホラー・サスペンス
容易く崖は切り立っていない
自白は強要するもの
要求は答えるもの
妥協はするよりさせるもの
では答えるが良し
「黄色い貴婦人が
やって来て脱皮を
汚い目で少し
見つめた後陽気に
笑い去る門出を
祝福する」
鳥が腹を空に向けながら
飛んでいるのは予兆
占い師の水晶玉は割れ
鉱山が活気を見せる
だがそれは空である
激突する鳥
ほんの一瞬
夢のような現実を
生きたことは幸福だろうか
ともあれ死骸は死骸
白墨で囲まれ
マーキングは五番
グラム数はミリ単位
針金で取り付けられた紙片
その記述
「やぁ
レストレード君
来る頃だと
思ってたよ！」
ひとりの男が卒倒する
彼の名を叫びながら
そして入廷
覗かれるプライバシー
黄色い貴婦人はオペラグラスで
オペラなんぞ見たりはしない