スパイス
いねむり猫


異国の食べ物から立ち昇る 
 由来も行方も知らぬ物語

リズムがつかみきれない 不可思議な音楽に跳ねながら、
 細密な砂嵐のように 体を包み込む芳香 
  

風土と血に練りこまれて 分かつことができない 刺激と香り

遠く貿易船で運ばれた木の実と 今朝 裏庭で摘んできた若葉が
交じり合って この街の食卓を 揺るがないパターンに染める

街角にたむろしている男たちの きびしい表情と体臭が
 街を覆い また刺激する

 循環と拡散   集中と忘我


この国の空港に降り立った瞬間 肺から全身に浸入する濃密な気配

大地を煮詰めた苦味が 血液に忍び込む興奮が 
 もう一つの世界へ体を開く


無限の配合  

秘密のレシピによって 真実に到達する陶酔

死に極限まで近づき そして時に蘇生するギャンブル

黄金の神の家に 到達できる人を選別する 深い瞑想と眠り 


獣の香りのするランプに反射する 金糸で織り上げられた衣装に包まれて
この瞬間を幻惑し、二つの世界を自在に去来する踊り手
 
いつかあなたも これらスパイスの道をたどり
 誰にも伝えてはならない 予言を得て
  砂漠の奥へと歩み去るのだろう


自由詩 スパイス Copyright いねむり猫 2012-02-19 18:27:11
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