無題(メモ書き)
中川達矢

隣で時間が流れている。

テレビは女子バスケットの様子を中継しているが、ここは読書の空間。そして、小説の時間が流れている。
妻は夫の浮気を知りながらもそれを直接は口に出さず、書いた手紙を机に置いてカマをかける。
夫は不倫を悪いと思いながらも、妻と一人の子どもに縛られることを嫌がっている。
交錯する妻と夫の間で子どもの時間が流れている。

読書している隣の部屋で兄が寝ている。昼間だと言うのに。
兄の時間が流れている。

行くはずだった講演会では、聴衆の時間が流れているだろう。
谷川さんの声を聞きに、心を弾ませ、年も性別も全くわからない人たちの時間が流れているだろう。
行ったとしても、顔を見たとしても、年も性別もわかるものではないか。



自由詩 無題(メモ書き) Copyright 中川達矢 2012-02-18 15:34:10
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