Winter Wonderland
カワグチタケシ

なにもかもすっかり変わっちまったぜ
明け方ガードレールに座って訳もなく
中途半端に笑ってたあの頃とは
なにもかもすっかり変わっちまった

今夜、降り積もる雪が
ストリートの喧騒を吸い込み
すべての汚れを隠しそして
かつて美しかった世界の姿を
俺達に思い出させる

歩道橋の上、新雪を踏んで
見下ろす交差点を行きかう車の
轍さえ今夜は
コートの袖に舞い降りる六角形の結晶が
次々に溶けかたちをなくしていくのを
いつまでも眺めていたいのは
感傷や憧れではなく

ビデオカメラのファインダーの中の
小さなモニターに映るまだ名前もない
昨日生まれたばかりの君達の子供の
粉砂糖みたいにけがれのない肌のような

夜空にただよう氷の破片が君には
散りはじめた桜の花びらに見えて


これがきっとこの冬最後の雪
埃まみれの春はもうすぐそこまで来ている
どうせ朝になれば
車道と歩道の段差や
公園の植え込みに残った雪が
薄汚れていくのを見なくてはならないのだから
この夜が明ける前に君にメッセージを送ろう
アニー・レノックスの歌うWinter Wonderlandの
引きずるようなぎこちないリズムで
郵便ポストまで歩いて行こう

惑星や月の因果律もすべて今夜は
鉱物質の大気がおおい隠している
思い切り呼吸すれば暗い気持ちも
いくらかましになるだろう

すべての偽物やまがい物も今夜は
光かがやく結晶につつまれて

おやすみ 美しく汚れた世界
  〃   使い古された言葉達
  〃   クリスマス後の恋人達

どうせ明日の朝までには
なにもかも通り過ぎてしまうのだから

 


自由詩 Winter Wonderland Copyright カワグチタケシ 2012-02-18 02:38:57
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