おひとつ94円
理来

ああ……
くれないの窓辺に
映り込んだバター・クレセント
ひとしずくの欠けたなみだ
こがねいろにカーブする先
その細い渓谷をなぞってゆくと
渇いた大地にたどり着き
それでもなお残された潤いが
至福の笑みを予感させる

その塩からいはじっこをはむはむ噛みしめると
かすかな甘みが膨らんで
わがままな唇を静めてゆくだろう
ついばむ鳩までやってきて
涙目で切に乞い求めるだろう
どうかそこな残りかすをひとかけでもくださいな、と

おお、こんがりと焼かれて香ばしい
ばたぁ、くれせんとよ
罪作りな月の贈り物よ
わたしに二つも買えと命じるか
やっぱり二つと命じるか
なんというきよらかな魔力
強大な吸引力
お前の渦に巻かれてわたしは八つ時の砂丘におぼれてゆく


自由詩 おひとつ94円 Copyright 理来 2012-02-17 23:58:41
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