仔山羊座
かぐ

肩に山羊を乗せたまま
二十年前の話をする

うん
ははは

積もる話が山になって
彼女が微笑むと花が咲いた
水に流した思い出が魚になって
彼女が流した川を泳ぐ

ため息の後ろに
少しだけ肩を震わせると
山羊は肩から飛び降りて、森の奥へ走り出した

人差し指を立てて
彼女の視線を奪う
その隙に行って
彼の足音に合わせて
小鳥がつぶやくように
とりとめのない話

その指、なに、と
彼女が目を丸めた
ああ、これ

怯えて川に逃げてしまった山羊は
やがて海に辿り着いたんだ
そして海の真ん中にある
誰もいない島でひっそりと暮らした
たまに島を出て海を泳いでいるけれど
もう山には帰れない
ただ海から山のてっぺんの小屋の明かりを見て
そこで暮らす、自分の仔を想うんだ

そうなの
うん

一本道で迷っているような
晴れた日に傘を差すような
彼女の手に触れたいと思う

今日はありがとう
少し肩の荷が下りたわ、と彼女が言うので
どういたしまして、と言って
濁ったお茶を飲み干す


自由詩 仔山羊座 Copyright かぐ 2012-02-16 03:58:18
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