気まぐれな 夜
いねむり猫


冬の夜 布団にもぐりこんできた君
冷たい肉球を 体の内側に折り込んで 目を閉じて なんの挨拶もない

真っ黒の顔に白いひげだけが ほうき星のように流れている


今夜はあまりに寒いから 廊下をぺたぺた歩いてきたんだ


君は
幼いころの事故で、横隔膜を破損したために
あまり深く呼吸できない
だから 布団から鼻先だけは出して寝る必要がある
そんなわけで私の肩に 頭を乗せて寝る癖がついてしまった

冷たい毛の玉は、すぐにぬくぬくと温まる

君はだんだんリラックスして
そして両手両足を伸ばすほどのびのびして
やがて 私のあごを押しのける

なんて失礼なやつなんだ

朝起きると、わたしの頭が布団から飛び出して
こいつが枕を独り占めしていることもあるくらいだ


それでも 
体の芯に折り重なった古い悲しみが目覚めて
 眠れなくなった夜には

君が布団にもぐりこんできて 
固く緊張してしまった心臓の上で
 目を閉じると

私は やっと
 暖かい深呼吸ができるようになる


自由詩 気まぐれな 夜 Copyright いねむり猫 2012-02-12 14:33:36
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