鳴かない猫
nonya
と
ある日の深夜
僕をじっと見る
餌の器をじっと見る
再び僕をじっと見る
知らんぷりして
パソコンに向かっていると
いつの間にか後ろに回り込んで
爪が出ていない肉球で
僕の背中をトントンする
鳴けばいいのに
お腹がすいた
と
と
ある日の早朝
鏡の中の僕を見上げる
風呂場のドアを見上げる
再び鏡の中の僕を見上げる
面倒臭くて
そのまま髭を剃っていると
いったん視界を外れてから
思いっ切り爪を出して
僕の太股に攻撃を仕掛けてくる
鳴けばいいのに
風呂のふたの裏側に溜まった
水滴が舐めたい
と
と
ある米国の裏町を仕切っていた
ボス猫の末裔のDNAが
そうさせるのか
君は
鳴かなくて
媚びなくて
容赦なくて
猫タワーの最上段から
すぐに泣いてしまう人間達を
見下ろすのが好きなのだ
が
と
ある日の夕暮れ
聞き覚えのない
猫の鳴き声が聞こえてくるので
窓からそっと覗いてみると
いつの間にか締め出された君が
玄関のドアをうらめしそうに
見上げていた
ごめんごめん
君の声忘れていた
よ