死にたがりとの出会いのうた
板谷みきょう

死にたいと思えるのは
死そのものが
実感できないからだ

いつ死ぬか解らない不安に
慄きながら
爪に火を灯すような
食事や排泄さえ
他人に任せざる得ない人が呟く
「死にたい。」とは
明らかに違うのだ





死にたい人は、死ねば良いと
思っていた時がある

“自殺”したい人は
“自殺”すれば良いのだ
それで
死ぬか死ねるか
死なないか死ねないか
それは
別問題なのだ





かつて
死にたがりの男性が
ビルの屋上から
飛び降り自殺を図った

救急車で搬送されてきた彼は
両足の複雑骨折だけではなく
他にも骨折や傷があった

入院してベッドで寝たきりの彼が
半年が過ぎた頃に
飛び降りた時のことを
話してくれた

   足がビルから離れた瞬間に
   「マズイ!」
   「やらなきゃ良かった。」
   取り返しの付かない気持ちに襲われ

   失神することもなく、そのまま
   地面に落ちるまで
   意識はしっかりとあり
   その時間は長く感じた
   暫くして
   自分の下半身から
   凄まじい音が聞こえてきた

とめどなくそんな話をした後
彼は、窓の外に目を移して
「生きてて良かった。」と
小さく呟いた

不自由な体で
車椅子で暮らす彼が

どうしているかは分らない

けれども
刹那に後悔しない為に
命ある限りは
生きるに任せるしかないさだめを
その時に知ったのだもの


自由詩 死にたがりとの出会いのうた Copyright 板谷みきょう 2012-02-09 22:26:13
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