あんまり寒いから今夜は熱燗にします
花形新次

街は凍りついていた
遠くで元血統書付きの野犬が唸り声を上げている
路上に放置された氷点下の水槽では
オレンジと赤と黒の模様の金魚が固まり
夏向きのお洒落なスイーツに見える

この冬の寒さは異常だ
寒さに震えるあまり
骨の軋む音が聞こえるようだ

眼前に広がる先進的な荒野には
空白の表情で人々が屯している
彼らを見ていればわかる
都会の、この街の寒さは単純ではない
とても厄介で、しかも執拗だ
ポツリポツリとある仄々とした灯りも
目を凝らすと透き通った青色をしている

「キ・・・ボ・・・ウ」
きみが奥歯を鳴らしながら口にしたとき
僕は正直何のことだか分からなかったよ
何度目かに
きみの向いている方角には
僕の思いも寄らない景色が広がっていることに気づいたんだ

きみが信じて疑わなかったものの正体が
やっとわかったんだ
根拠がないと思われたものは
実は、母胎に裏うちされた確かなものだったのだと

僕の腐りかけの細胞は
きみの混じりけのない針で突かれ
ドロドロとした毒素をすべて吐き出してしまったみたいだ

街は凍りついていた
きっと、ずっと凍りついたままだ
でも、今の僕には
小さな火が見えはじめている



自由詩 あんまり寒いから今夜は熱燗にします Copyright 花形新次 2012-02-01 16:33:26
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