多機能な女
乾 加津也

 夜のドックから走り出す多機能な女

関節を裏側にまわしてステンレスのホイッパーを固定する
ふるえる卵黄と小麦粉がはねつく
すべりだしたパーツからコルク抜きが選択されると
シールドはしぶく

 女がほしがるのは動力であって
 愛ではない

ジョギングから帰るわたしに
夜景ごと切りとる紙を幾枚もくりだして四方を囲う
体を丸めて女は最新式のバスタブになる

 女の目的はわたしの必要であって
 しあわせではない

涙といえば
きちんと涙もでるようだった
(それが行為と、いうことだけれど)

悲しいはこうだよ
やさしく波立つわたしの深み
体温とおなじ成分(ぬくもり)がこぼれた


自由詩 多機能な女 Copyright 乾 加津也 2012-01-28 16:30:23
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