朦朧の楽しみ
たにい


もう起きる時間だろう
眠りの中で身体のどこかがそう告げていた
案の定 暫らく経って携帯が鳴る
わかっているよ でももう少し寝ていたい
「いいんじゃない このままで」誘惑者が甘い声で囁く
しばらくは夢と現実をつなぐけもの道を歩いていた

「いけん いけん起きんと遅刻じゃ」別の誰かの声に起こされた
手早く朝食を摂り身支度をして 駅への道を辿り始めた

日光を照り返す白壁が覚醒を促す
朦朧たる頭脳に血が巡り夏目漱石の芸術論が思い浮かんだ
芸術が権利や義務に縛られた世界の中で暫く心を寛がせてくれる功徳があるなら この半覚醒も同じ功徳かあるな
今日は朦朧を楽しむ一日にしようかな
そんなことをつらつら考えながら歩いていると凍った道に滑りそうになる
小鳥が鋭い警告音を発して飛び去った
「気を付けんといけんよ」

ありがとう小鳥さん さあ今日も権利と義務の世界で生きてゆこう


自由詩 朦朧の楽しみ Copyright たにい 2012-01-27 00:33:10
notebook Home 戻る