鏡の塔 (生体反応の設計)
乾 加津也

なにも映せない、一枚の歪んだ鏡の塔のようだ、鏡のむこうに空が抜けて、地面が抜ける、わたしと思う人(問い一)もさくりと抜けてしまうのに、わたしと思う人(問い二)の舌だけが粘り強く、鏡の縁を這う、たしかラ行変格活用のときにもそんな目で口から覗いていた、今は、られない不安に苛まれながら、あちこちではじまる味蕾の電撃を根掘り葉掘りいとおしむかのようだ、調和や協働の器官としては失格だが、もはやわたしと思う人(問い三)が滅失した以上、古史生態系の残党としてどうかガラス張りの評価を与えてほしい

だれも住めない家を建てる、成すには順序があるという、掘った地中の杭の上に基礎を乗せる、柱と壁と天井の構成が内向きになると空間ができ、窓を開けて風を通す、電力で快適をインテリアで満足を、約束された十分な睡眠をさそう部屋をだれのために?そこから問いがはじまった、(それは、息を、吹きかける、)WHO、not for sale、骨格というベーシックスペース、免震構造の哺乳類のためにわたしは建つ、バクテリアが育ち季節がきても、住まない、だれかを待つ、幾億もの哺乳類たちのなかに建ったわたしが奇妙な動きでそそくさと、紛れてきえる、わかっている、に寄生する

どうしても、辿りつかない手紙を書く、否定から生まれる物語をこのまま進めてみようじゃないか、風は笑う、吹いてしまったものはどうしようもないじゃない、それでも書く、不通はどうしようもないじゃない、それでも送った、鏡は家にならないじゃない、それでも建てる、いよいよホワイトアウト、クリーンネス、分解能に君臨する冬に尋ねる、ではなく、冬を尋ねる樹海を音声化(ボイストレーニング)して、笑う風の便箋につづる「失くした」、lost、「泣く舌」、lost、エラーは403号室・・・、あなた(問い一、問い二、問い三、及びこれらに関連する人称に準ずる)の言葉(tongue)じゃないじゃない

ラングエッジ
この期に及んで
それはどうでもいいことだ

 舌の根の
 乾かぬうちなら


自由詩 鏡の塔 (生体反応の設計) Copyright 乾 加津也 2012-01-25 17:44:27
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