道端で泣いている人
伊織

池袋東口の駅前、大通りにある銀行の隅で
彼女は倒れていた。
人通りの邪魔にならないように、体をぎゅっと建物の方に寄せながら、
しかし彼女の口からは嗚咽が漏れ聞こえてくる、はっきりと。


一方、東京有数の繁華街を通りかかる人の数は計り知れず、
次から次へ運ばれては流れていく。
そんな流れの中、
彼女はそこにいるということを気付かれないという以上に
存在を打ち消されていた。

つまり、それは幾多の紙くずと同じことなのだ。

汚れた紙くずに降り始めた雨は泡を立ててみるみる濁っていき、
誰も彼もが彼女を避けて通りすぎていく。
濁った泡は粘着し、天には還らない。
ただ、地面をひたすらに汚していくだけだ。



彼女は倒れている。
嗚咽は少しずつ収まりつつあった。
雨は本格的に彼女を濡らしにかかっている。
彼女は、
目からあふれる液体と空から降り注ぐ液体がよく混ざるように静かに上を向き、
それから

何もないこと


抱えたまま、雑多な人ごみへ消えていった。


自由詩 道端で泣いている人 Copyright 伊織 2012-01-19 21:20:47
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