残像
HAL

’69年

Lolling Ageの時代だ
Coltraneが40歳で急逝し
BeatlesがAbbey RoadのEMI Studioで
7月30日にPaulが独りで
Golden Slumber
Carry That Weightを繋いで
Beatlesとしての最後の録音を終えた

その前の年
フランスでは五月革命が起こり
その先頭に立ってデモを率いたサルトルが
自身の【嘔吐】を否定した

日本では安田講堂が陵辱される様に機動隊が突入し
翌年 三島由紀夫が割腹自殺をし よど号が乗っ取られ
その後 浅間山荘が始まり終り
ポール・ニザンの言葉を借りるなら
真のおわりの始まりであって
このおわりから何かが始まろうとする
端緒ではないかと錯誤したことだ

すべてはColtraneの急死が遠い引き金になっていた
誰もが叫び声を挙げ 誰もが挫けた

そして逆らう意思は粉砕された
沈黙と啼かない獣が調教される時が来て
眼には視えない熱の燻りも曠野の果ての果ての森閑の中で
カティンの森の虐殺の様に消失した
発熱したままのものは 近親憎悪で殺される怯えに地下に潜った

破綻が不気味な笑顔を持ち上げ
すべての芸術からメッセージは口を閉じた

’69年
すべてが起点であった年
遅れて生まれた世代には その亡骸だけが
残像の様にかろうじて盲にだけ視えた年

そして囁く様に我等が年と呼んだその年は
その言葉を待つ様に消滅した
すべてが流産だった 産まれてきたものも死産だった
陣痛の痛みだけが鋭く長く感じられても

そして’70年の万博で日本は踊り
カレンダーは ’68年の次は’70年と刻まれた
’69年はジュラ紀の化石となって彼方で屠殺された

’69年 ’69年 ’69年
PaulはThe Endの録音を終え
’69年は埋葬された

神父も牧師もいなかった
聖書の一節さえ読まれはしなかった

そしてEaglesは
’69年もののワインはHotel Californiaには
ございませんとDon Henlyに歌わせた


自由詩 残像 Copyright HAL 2012-01-15 16:27:51
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