カラスを生んだ鳩
まーつん

母さん
随分あんたと
話してないな
いつも 棘を踏むような気分にさせられるから

母さん
今日も元気に働いてるかい
俺のいない町で 遠い空の下で
自由を楽しんでるかい 暴君だった親父から離れて

雑草のようにたくましい あんた
踏まれても 踏まれても また頭をもたげて

いま 寂しくはないのかい
毎日 軽のハンドルを握って
職場に向かって 長野の平野を走るあんた
ふとフロントガラス越しに 高い空を見上げるとき
あんたは 何を考えるのかな

不肖の息子の事?
不幸な結婚をして そして離婚した 娘の事?
養護施設で暮らす いつも穏やかな笑みを浮かべている あんたの母親の事?

あるいは その日の朝に 庭先に見かけた ヒヨドリのことかもしれない
ついさっき渡った 小川の水の きらめきのことかも
職場の上司のこと
これからまた始まろうとしている 
エンドレス・テープのように延々と繰り返される 仕事のこと

あんたが何を考えているのか 俺がわかるほどには
俺が何を考えていたのか あんたにはわからなかった

鳩にカラスの気持ちが わからないように
林檎に梨の気持ちが わからないように

幸せになってくれよ
血のつながった他人
カラスを産んだ鳩

いつかまた 会いに行くよ
この身体を 白い羽で覆って
そして また楽しく
仲のいい親子の ふりをしよう

解りあえた二人の ふりをしよう


自由詩 カラスを生んだ鳩 Copyright まーつん 2012-01-14 23:26:23
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