水色の贄
佐々宝砂

水色のものしか口にしては駄目よ と
お姉さまは仰有いました
緑ではいけませんの と訊ねますと
緑は駄目 薄紫なら構いません と
お姉さまはお笑いになりました

わたくしは紫色のキャンディを食べ
ほのかに青い曹達水を飲みました
お姉さまはしとやかな指先で
透きとおるビィ玉をひとつお取りになり
淡紫の香水をほんの少しお飲みになりました

けれど正直なところ
わたくしはおなかが空いて堪らないのでした
それでわたくしは空色の甘いゼリィを食べ
ワイン色の氷果子を食べ
真っ青なドロップを舐めたのです

お姉さまは哀しげに御覧になりました
わたくしはあなたが大好きなのよ と
溜息混じりに小さな声で仰有って
お姉さまは すう と煙草をお吸いになりました
煙草の煙はいいのよ だって紫煙という位ですもの

お姉さまはどんどん痩せてゆかれます
お肌に張りが無くなって 少しお老けになりました
カリウム というものが足りないのだ と
お医者さまは仰有るのでしたが
お姉さまは一粒の薬も口になさらないのでした

お姉さまは果敢なくなるでしょう
明日か さもなければ 明後日にでも
お姉さまの御両親はさぞお嘆きになるでしょう
けれど わたくしは 嘆きませぬ
わたくしは薄青いビィズをそっと口に含みます


自由詩 水色の贄 Copyright 佐々宝砂 2004-11-28 01:06:41
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