ブリキの金魚 2012
たま
うすっぺらな
アスファルトを剥したら
今も蘇る
ブリキの街
白く錆びた娼婦の肌が
うすい庇の影に
やさしく溶けて
ぼくを呼ぶ
はだか電球ひとつ
布巻き電線が這う天井
タイル張りの
まるい湯舟に浮かぶ
ブリキの金魚
あなたの柔らかい腕は
湯をはじいて
三つ子の背を離さない
貧しいということばが
生きていた
あのひくい街の
空の下で
くすぐったい紅の香りが
湯気を染めて
おさない情けの海に
沁みてゆく
娼婦は浅い金盥に
湯を汲んで
ぼくの髪を
流しはじめた
うつむいた乳房の夢が
まどろむ皐月の宵に
汗ばむ肌と肌
重ね合って
見つめ合って
明日をも知らず