記憶喪失の実験
たにい

記憶を失えば 自己証明ができない 
IDとパスワードを忘れたら 私が私だと人が認めてくれない
魂の不滅だの自己の存在理由だのと何世紀も大騒ぎしたあげく このザマか

いや待て むしろ自分という牢獄から自由になれるのかもしれない
自分が自分であるというだけで持てるという あの根拠のない自信に到ることができれば なんと素晴らしい

それより重大なのは郷愁に浸れなくなってしまう事だ
優しいばあちゃんの顔や藁束を燃やす懐かしい匂いを思い起こすことができなくなるのは寂しい

ところが記憶という拠り処のない郷愁もありそうだ
青空を見ていて感じる悲しみに根拠はあるのか

でも性格の良い猫にも愛された記憶はある


自由詩 記憶喪失の実験 Copyright たにい 2012-01-06 03:38:18
notebook Home