Adam's Apple
佐々宝砂

請ふ恋ふと鳴く鳥あはれあはれなれば抱きしむべし夜に勃つ人よ

我になき器官妬まし怒張せしものに歯を立て君を見上ぐる

我ならぬ生物の一部飲み込むる我は一本の管なりけるか

快楽に耐えて噛みたる唇の血泡の滲む猿轡かな

涙溜めておもちゃにしてと乞ふ人を鞭打つ腕の鈍き疲労よ

       *

生きてゐる手が愛撫する生きた肌死ぬ死ぬといふ喘ぎを嗤へ

いつからかそれを聴かねばまぐはへずカストラートの白き歌声

湿りたる音懐かしみ崩れゆく骨に乾きし肌重ねたり

ならばこの血を吸ふ虫は何者か蜜壺もなきこの我の血を?

宵闇の粘膜よりも蜜よりも血を欲るのみの Adam's Apple



(初出 今は亡き十八禁短歌投稿所「欲情短歌」)


短歌 Adam's Apple Copyright 佐々宝砂 2004-11-27 00:36:20縦
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