あの日
寅午

あの日、かれらはこの線路のうえを
電車に乗って去っていった
あの日から線路は
瓦礫におおわれ、寸断したまま
川をわたった橋梁はながされ、レールは宙にういてねじ曲がり
枕木はあとかたもなくきえて
はしる電車の音はきこえない

草や木ばかりがよみがえり
あの日、たくさんの命をのせていった
電車はもう帰ってこない

 「 遠いところへいったの?
わたしのそばで、こどもがきく

 「 そうさ。すごく身近で
   とってもとっても遠いところさ。
   紙の表と裏のようにね。

 「 きみのおかあさんは
   いまもきみのちかくにいるんだよ。
   もう会えることはできないんだけれど、
   感じることはできるんだ。

わたしたちは すっかり葉をおとした
木立のあいだを帰っていった
凍てつく冬のなかの
ちいさな陽だまりにぬくもる心をたずさえて


自由詩 あの日 Copyright 寅午 2011-12-24 19:50:13
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