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Akari Chika
家から徒歩1分のところに高台になった駐車場がある
高台と言ってもほんのわずかだ
しかし私にとってはその“ほんのわずか”が重要で
冬の夜の帰り道、
そこへ立ち寄ることが多い
息が白いな
目の端に涙が滲むような寒さだ
1日って早いな
スーパーの袋が重いな
あのメール返さなくちゃ
早くあったかい部屋でごはんを食べて
テレビを見ながらホッとしたいな
お茶を飲んだら
泣きたいな
そんなことを思いながら、
その場所へ向かう
冬の醍醐味は空が澄んで星が綺麗に見えること
でも都会の明かりには簡単に掻き消されてしまう
田舎でも都会でもないこの街で
私を待っていてくれる星の数は
私の横を通り過ぎる車の数よりも
多いだろうか
少ないだろうか
よたよたと階段を上ると
左側には民家が立ち並び
右側には空っぽの車が整列して威圧感を与えてくる
草を踏む音が
響き渡る
空を覗くことを私はためらう
星に呑まれてしまうのが怖い
ここから動きたくないって思ってしまうことが怖い
星は美しい
現実で出会う美しさとは
またちょっと違う美しさだ
星は優しい
温かくはないが冷たくもない
突き放す訳でも甘やかす訳でもなく
ただ自分の役目を知っている信号のように
一定の速度で光を放つ。
一呼吸おいて空を見上げると
オリオン座の三つ目と目が合う
星の塊が
さざめいている
上空を行く飛行機の明滅と時折混じり合いながら
瞬く
またたく
あの星も
向こうの星も
もう馴染みの顔だ
今夜は賑やかだなあ、
また一段と
寒さが増したからかな
手の先は震えるほど冷たい
唇は微かに歌を口ずさむ
誰にも届かぬ歌を
お風呂の甘い匂いが鼻をくすぐる
片付けを終えた台所の
くたびれた明かりが洩れている
目も
心も
安らいで
北も
南も
東も
西も
私の味方、
そんな気がしてくる
そう、例えば故郷みたいな、そんな感じ
ふるさと と言えるこの感じ
家を
遥かに
越えた家が
宇宙全体に散らばっている
扉はいつでも開けるけれど
開け方にコツが必要で
ねえ、不器用な私にはちょっと無理かな
本当は星の中で眠りたい
宇宙はやわらかい毛布そのもの、
瞬きの数は唱えた羊の数と同じ、
だからすぐに眠れるでしょう
窓からは地球が見える
一番愛している人を見ながら寝るのは幸せだ
あの海の碧も
いびつな雲の形も
愛している、
あの円も。
だから良い夢を見られるでしょう
朝が来るまで
ぐっすりと
帰ろう。