君の世界の風下で
nonya


マーマレードの空瓶に挿した
残り物のクレソンに
小さな蕾がついたと
わざわざ見せにくる君

これから何年経っても
君の世界に吹く風は
遊歩道のささやかな花を香らせ
名も知らぬ草を撫でるのだろう

僕の好きな猫っぽい記事を
几帳面に切り抜いて
コーヒーの湯気の傍らに
さりげなく置いていく君

これから何年経っても
君の世界に注ぐ光は
街路樹のにぎやかな葉を笑わせ
ありふれた窓をまどろませるのだろう

ときどき僕の中の
やじろべえが傾いている時
ときどき君の中の
ちょっと我儘で強情な子供が
癇癪を起こすけれど

ときどき僕の中の
かざぐるまが回らない時
ときどき君の中の
ちょっと心配性で塩辛い雲が
にわか雨を降らせるけれど

いろんな所にぶつかりながら
僕も少しは学習したから
子供を手なずけるのも得意になったし
もう傘なんか差さないことにしたよ

君の世界の風下の
壊れかけたベンチに座って
読みかけの本の頁のように
そよそよそよぐのが
今は好きかもしれない

君の世界の風下の
手狭なベランダにたたずんで
着古したシャツの袖のように
はたはたはためくのが
今は好きかもしれない

今度の土曜日が雨じゃなかったら
君の世界と僕の世界が
新たに重なり合ったあたりに
青い花の種を植えてみよう





自由詩 君の世界の風下で Copyright nonya 2011-12-15 19:31:01
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