裂け目から
nm6

1.口(先端)

隙だらけな口先が尖っていて、三日月だった。どうやらそれは動いている。晴れた夜も、駅の看板は傘をさして咳き込んでいた。メッセージが肩を軋ませあう街で、きみの尖ったり嘯いたりするだけの、声。しゃがれた臆病がドレスを着て、人ごみをヘイトしていた。「テトリスをしよう、このビルの電気をさ、なんか500人の召使いにつけたり消したりさせて。」先端が、あこがれる。ぼくは見ている。そんなパフォーマンスが、落下する光線の傍らで繰り返された。ただ隙だらけな口先が尖っていて、三日月だった。



2.耳(ぼくら)

ぼくら耳。応答せよ、応答せよ。洪水する空気が、過剰なる挨拶をいなたく告げないか。だってもう、いらない声ばかりで。細やかさの上を這うように撫でる、君の耳は全ての苛立ちを吸い込んで黙っている。だから「遠く知らない青い空の外国語だよ」。洪水する空気にただ不安でいる。この部屋は数年前のように静かで、張り付いたガムテープの君の痕が壁の裏側で敏感を踏みつけている。注意、ということ。そして愉快なるアナウンスは、ぼくの奥底であれよあれよとすましている。応答せよ。



3.目(花を)

すべきの海岸が眼前に広がる。波立つ白さが、はしゃぐという遠い記憶にとても似ている。されどの山頂では、涼しげな声がこだまを発そうとしている。イメージする、抽象。「ぼくらの東京の喪失のないところから花、咲いたの。見た?しゃがれた臆病がドレスを着て人ごみをラヴして、」「ラヴ?それってほんとに見た?」また明日になれば、総体としての会話は海岸に山頂に、転ばぬ先に溶けていく。風景としての嗅覚。そんな「なんでも色彩にするマジックなんで」ってさ。



4.鼻(たしかめる)

泣く。
きみが、ここで、喉元に髪。テクスチュア。
そして薄びれた胸元でたしかめる、オブジェクト。
ただ、いま、ここにいない。



5.雨(やんだよ)

聞こえないよ、ほら。薄いバラ色の酸素が、そして似たような色の二酸化炭素が。ぼくらはふたたび、夜の街へ溶けていく。どうやらそれは動いている。ただ隙だらけな口先が尖っていて、三日月だった。アナウンスは、ぼくの奥底ですましている。また明日になれば、総体としての会話は海岸に山頂に、転ばぬ先に溶けていく。ならばドラマティックに、できるかぎりドラマティックに。


雨がやんで、すべて忘れた。
ただ、地球の、いい匂いがするの。


自由詩 裂け目から Copyright nm6 2004-11-25 23:59:14
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