燃える島
山人

夜の海をゆらゆらと私は舟を漕いでいた
天球の子宮のような空間
おだやかな潮の香りがおびただしい生を封じ込めている
櫂の力を緩めると島が見える
オレンジ色のひかりを放ち島がゆらめいている
火の粉がときおり闇にのび上がり黒い海面と漆黒の闇の中で
島は豊かに光っていた
波打ち際の静かな海岸
かぞえきれない蟹が砂地を徘徊している
いつのまにか蟹の上を私は歩き蟹に運ばれるように島に入っていく
島民はみな若い人で溢れている
椰子で組まれたやぐらの上で幾人かが叫んでいる
島の上空に星が瞬き静かにひかっていた
透明な瞳と透き通った頭蓋があり脳が燃え出している
焼け焦げて死んでしまった人もいた
私は椰子に身を隠しながら近寄った
やぐらの人がしたためた唄が島を包んでいる
一心不乱にそれを聞く人の脳がもえる
電球のように燃え上がる脳がやぐらを取り囲んでいる
やぐらの人が手をさしだし、ひかりを持つ人々を次々に引き上げる
やぐらに上がれなかった人は、次々と黒く焼け
焦げた脳がぶすりぶすりと黒煙を吐き出し、静かに死んでいった
地には億千の蟹の群落がうごめきだし焼け焦げた人を海に押しやった
舟の綱をほどき海岸の蟹の絨毯をあとにした
島はやがてめらめらと燃え出し島全体が赤く浮き上がった


自由詩 燃える島 Copyright 山人 2011-12-13 06:16:20
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