まーつん

先を争って水面みなもを目指す  たくさんの 泡
ほどけたネックレスから 飛び散った
真珠のように 輝きながら
晴れた冬空の 明るさで染まった
水の中を ころころと 駆けあがっていく

会員制の スポーツクラブ
高いガラス天井から 降り注ぐ
気だるい午後の 日差しを浴びる
プールの底で 仰向けになって
水の揺蕩いに 屈折する
陽光の世界を 見上げながら
その男は いつも 思うのだった

揺らめきながら 登っていく
僕の吐息を 孕んだ
銀の小さな 卵の群れ

彼らは 似ている
生の鎖から 解放された
人の 魂の姿に

もしも この命が
急な曲がり角を 飛び出してきた 車や
一本の動脈に詰まった ちっぽけな不純物の 塊によって
この肉体から 弾き出されて しまったと したら
この重力の くびきから 解き放たれたと したら

僕の魂もまた あの泡の一つのように
喜々として 天を目指して
青空の 階段を
駆けあがっていくのだろうか

砂粒ひとつ 漂うことのない
澄み切った水の中を たわむれながら昇っていく
この 銀色の 吐息のように

館内放送が 虚ろな声をこだませながら
営業時間を 告げている
男は 体を ひるがえし
再び 刺すように乾いた
空気の世界に 舞い戻っていく


自由詩Copyright まーつん 2011-12-11 13:01:33
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