8グラム
餅ヴィシャス
手打ちうどんをひたすらに打つ
真っ白な君の事を考えながら
手打ちうどんを
もち肌、もち肌と重宝されてるらしいが
もし手打ちうどんがお餅つきと同じくらいに
メジャーな催しとなった場合
女性の肌を表現するうえで
どちらが正確なたとえかお判りになるだろうて
というソウルでうどんを官能的に揉みしだいていたが
・・・やはり、なんというか乳首も欲しいよね
と、蕎麦粉で
君の乳首を再現してみた
最初、さすがにそれは無理やわ・・
なんて、自身の手先に対して半身半疑であったが
意外にもとてもよく出来た
とてもいい乳首だ
俺は自身の修行の成果を実感すると同時に
あの厳しい師匠の指導力に脱帽せずにはいられなかった
東京ドームで激しく鳴り響く「師匠コール」のイメージで
俺は師匠を褒めたたえる
厨房で
一人で
師匠に腕の上達を認められた俺は
お客様にうどんをお出しすることを許された
この程度で天狗になる、というのは恥ずかしいが
ちょっとした気のゆるみから
「乳首」を入れたままうどんに仕上げてしまい
たまたま極度の蕎麦アレルギーだった極道の親分が
救急車で運ばれていった。
救急車の後を追うフルスモークのベンツの台数を見た俺の顔色は
うどんより白かったぜ
師匠は、すぐさまそのうどんをすすり、
「・・・蕎麦・・8グラム・・・・・・・まじっとるな」
と呟いた
師匠の選饂飩眼に驚愕しつつ
信頼を裏切った事が頭をよぎると
庭園の岩を叩き割る時に起こる
ものすごい轟音と衝撃で
己の現在と過去と未来をぶっとばしたくなるが
(あの人の乳首はふたつで8グラムかぁ)
といった浮かれた事を
この期に及んで考えているような饂飩野郎であるから
俺は今
事務所で、サミュエル・L・ジャクソンみたいな連中に囲まれて
自分の小指に包丁をあてがっているんだろう
人に見られると緊張する
指を切るのは初めての事だからなおさらだけど
絶対に君の乳首を呪ったりはしないよ
君とも逢えたし
最近はよくベンツにも乗れたし
8グラム
体重が減った程度で
俺は何も変わらない
手打ちうどんを打ちながら
真っ白な君の事を考えている