暗室
timoleon

それを目の前で見たとしたら



傾斜した繁華街のとりわけ地盤の緩んだ坂の下にビルディングの錯綜した影が幾重に折り重なる穴のような暗室でパーティーはそろそろお開きの準備という状態がもう幾年も続き、疲弊した兵士のように「終える」ことでしか現状が打破できないという不安と焦燥が濁ったまま喉元から煙のように立ち昇ると充満した頭の淵で時々十四時の破片が廻ると同時に人々も嘘のように廻るのです

主人公はスパイでないと退屈
ただしよくできたスパイは守秘義務にうるさいし
スケジュールが年内まで埋まっていたので
いつも失職したスパイに出演依頼をすることになります

光源を利用して 金縛りのように 静止し、ます

現像液から浮かび上がる暗殺者の顔をしっかりと捕らえていた
写真に撮られる暗殺者というのは
心霊写真の対象と同じく
生きてこの世にはいない

食べ放題の日でも腹ペコ

珈琲に砂糖を二杯、三杯と放り込み
カップの底をスプーンでかき混ぜながら
足の揃わない傾いたテーブルをはさんだ帽子に訊ねます
「何故、誰かの秘密を知る時、知りすぎてしまうのか」
すると目深にかぶった帽子の下の濃褐色の肌の口だけが開きました
「カメラに撮られているのを知らないのは本人たちだけだ」
と言い放つと、帽子は一瞬で飛んだ
ガラスのウインドウに空いた穴から風が吹き込み頬に当たる
脳の南半球はテーブルの上で崩れ落ち砂塵になっていた



視力ではあまりにも非力だ


自由詩 暗室 Copyright timoleon 2011-12-06 14:22:38
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