ボヘミアンラプソディー
しゅう

うたという牢獄があった

あなたを閉じこめて
美しく咲かせるための

(逃げ出した校庭を誰も追ってこられないように)

格子戸に規定されたボヘミアン

歪んだ壁、歪んだ鏡
うたは片足立ちで揺れて
ボヘミアンは自分の顔も忘れる

辞書には食べた跡がいくつもある
誰かが何かを奪ったのだ
世界は言葉を亡くすたび、ボヘミアンに助けを求める

でも、おれにはうたなんてないんだ
あなたを縛って、鞭打って、改造して、美しく咲かせるための
そんな牢獄をうたと呼ばせて

(昼下がりの暗闇を、僕は覚えている
 誰もいない教室に、僕たちの影が踊っていた)

死んだ友だちはいない
十字架を背負えないボヘミアン
世界は言葉を亡くすたび、ボヘミアンに問いかける

大人になって頭痛だけを覚えた
鈍すぎる痛み
花が関節に根を張って、おれをベッドに縛り付ける

美しく咲かせるための犠牲

時間泥棒も、言葉泥棒も
世界を盗んでいる
できるならおれも居直り強盗ぐらいふてぶてしくなりたい

(砂漠で響く銃声は、テレビを通して流れてくる
 けれど喉笛から漏れ聞こえる、死の息づかいは)

葬列はおれに並べと呼びかける
あなたを美しく咲かせるために
あなたを葬れと

何もない背に、枯れた太陽が注ぐ
世界は亡くした熱を求めている
ボヘミアンは力の限り叫ぶ、その義務がある

嘘のようなうたがある
嘘のような牢獄に
嘘のような世界がある

けれど、あなたを嘘にしたくない
おれはあなたを背負いたい
おれはあなたにうたいたい

(目覚めて、散らかった部屋に帰ってくる
 あなたの寝顔で安心する
 けれど、窓の外に広がるうたを僕はどうするのだ
 どうすればいいんだ、ボヘミアン)



自由詩 ボヘミアンラプソディー Copyright しゅう 2004-11-25 03:49:15
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