予感
まーつん

なにかが 出てきそうだ
僕のおなかの あたりから

いつも 予感がある
それは身じろぐ 胎児にも似て
この意識の どこか内側の さらに内側にある
見えない子宮の中で もがきながら 訴えている
ここは狭いし 窮屈だよ どうか 出しておくれよ と

そこで僕は 机に向かい 
白い紙の上に 自由にしてやる
ペン先から滴り落ちる インクの文字の連なりを

それは 絡み合う遺伝子の コードにも似た
一つの身悶えする 生き物
イメージ という名の
虚ろなる 種族

それは伸びをし 首を回し
血まみれの顔で 周りを見回し
そうして 新鮮な空気を 味わっている

僕は 声をかける
ようこそ 白の世界へ と

君は ことばの種子
まっさらな シーツを汚す
黒い破水の染み その最初の一滴
成長し 分裂し 紙いっぱいに 繁殖して
今の 僕自身を反映する 鏡の世界の住人となる

君たちは木になり 花になり 鳥になり
もしかしたら 己が形作るその景観故に 人々から
愛されさえする かもしれない

見向きもされない かもしれない

でも どちらであれ 僕が そらとなって
君らを見守ることに かわりはない 

君たちが乾いたら この白い大地に 雨を注いであげる
君たちが寂しくなったら なにか新しい生き物を 届けてあげる
暖かい日差しを 凍えるような北風を 重力の鎖を 立ち上がる力を

そうして僕の中に息づく かりそめの命の なにもかもを
君たち文字に移し替えて この精神の胃袋を 空っぽにしてしまおう
ちょうど雑貨店の 棚卸のように
想像の領域から 仕入れた
有象無象の イメージを
文章という 帳簿に
移し替えていく

これに のめりこむと
僕という 一個の存在から
性別が 抜け落ち 年齢が 消え失せ
気が付けば 空白の世界を あてもなく彷徨い
一匹の ホタルのように 明滅する
ちいさな ちいさな 造物主となっている

あるいは むなしく杖を振り回し
思い通りに 言葉を舞い踊らせようとする
未熟なる 魔法使いに

それはいつも 予感から始まる
衝動となって 芽生えてくる
やがて うずくような
欲望へと 脱皮して

何かが 出てきそうだ
僕のおなかの あたりから  


自由詩 予感 Copyright まーつん 2011-11-29 00:02:32
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