ノート(消えたひとへ)
木立 悟





膝小僧の原にうたいながら
幾度も幾度もくちづけながら
鉄を見捨てぬ鉄の味の背
赤錆の行方を見つめていた


ふたりの終わり
既知につながり
ひとりには帰らず
果実のように果実に降る雪


砂を固めた建物の回廊
無数の曲がり角にたたずみながら
灰はむらさきの命を見ていた
孵ることのない命を見ていた


代わるものはなく
押し寄せていた
つながりを知らず
つながっていた


砂の夢のなかに
またたくもの
めぐりから外れ
歩むたましい
見えないすべてをまばたきに
あふれさせて



救われることなく救われたのに
あなたは突然 消えてしまった
呼びもどせないものに呼びかけながら
倒れ来るけだものの陽に微笑みながら



苦しみが待ち
苦しみが待つ
手をほどこうともせず走り出し
柱にぶつかり
曲がり角は消える


迎えの来ない まっすぐの道
異なる季節の 午後にまたたき
空に触れては 消える左手を
右手で曇に 彫りつづけていた



















自由詩 ノート(消えたひとへ) Copyright 木立 悟 2011-11-25 22:57:52
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